米国に生まれ育った台湾系米国人、郭怡慧(Michele Kuo)さんは、中国語よりも英語が得意という作家。米ハーバード大学の出身で、7月に米国で小説「陪你読下去(Reading with Patrick: A Teacher, a Student, and a Life-Changing Friendship、あなたと一緒に学び続ける)」を出版した。出版後、多くのアジア系米国人から、「初めて社会正義を貫くアジア系米国人の物語を読んだ」との反響が寄せられた。
「陪你読下去」は今月、台湾の出版社、大塊文化出版から書籍とウェブ版の中国語版が出版された。郭さんは、大学卒業後、米国の教育NPO、「ティーチ・フォー・アメリカ」のプログラムによって、米ミシシッピ沖積平原沿いのアーカンソー・デルタにあるオルタナティブスクールで2年間教べんをとった。その後、アフリカ系アメリカ人の学生が殺人罪で投獄されたことを知る。郭さんは、刑務所へ面会に訪れ、読み書きを教えたというストーリーを基に書かれたのが「陪你読下去」だ。
大学で社会研究を専攻した郭さんは、「私は、米国の中北部で育ちました。そこには、移民はあまりおらず、小さい頃に学んだ教科書には、白人と黒人しか出てきませんでした。アジア系米国人のことは全く書かれていませんでした。両親も台湾のことは話しませんでした」と語った。アジア系米国人という呼称は、1990年代後半になってようやく一般的に使用されるようになったと郭さんは言った。
幅広い分野について学んだ郭さんは、本に書かれた黒人が人民の権利を争うために努力するリーダーを英雄と見なすことに共感を覚え、「彼らにとても親近感を感じるし、自分が彼らと違うとは思わない。彼らのように更なる一歩を踏み出し、彼らについて前に進むよう激励されている」と説明した。
郭さんは本の中で、移民である両親からの圧力に悩み、アメリカン・ドリームを追い求める移民第二世代が受けるカルチャーショックを描いている。
郭さんは、「NBAに所属するバスケットプレーヤーで台湾系米国人のジェレミー・リン(林書豪)が5年前にメディアに登場した時は、本当にうれしかった。米国人には、アジア系米国人に対して面白みがなくて、ただ勉強しかできない、バスケットボールなどできるわけがないというイメージがある。ジェレミー・リンはそんな米国のNBAで名を馳せた」と語り、「ジェレミー・リンの例を見て初めて子供の世代に是非アジア系米国人の歴史を知ってもらいたいと思うようになった。」とした。
郭さんが教べんを取っていた米国南部の都市は、就業機会が少なく、外部からの移民がいない。学校の多くのアフリカ系米国人は、アジア系米国人を見たことがないという。遠慮のない物言いで迎え入れられた郭さんは、中国のNBA元選手姚明さんの親戚かと尋られたことさえあった。
そのような経験を経た郭さんは、読書が生徒たちに与えた影響を目にした。「読書によって平静さを取り戻すことができると共に、外の世界と接触することもできるようになった。そして、ほかの人は自分の物語を知りたい、自分の物語に対して興味を持つことも分ってきた。さらに他人のことに対してもより思いやりを持つようになった」と読書が生徒に与えた影響を語った。
郭さんによると、「陪你読下去」には2つの矛盾した結論が書かれている。一つは、私たちは他人に手を差し伸べることができるということ、もう一つは、取り巻く環境に問題があり、幾度もの交渉や法律の厚い壁で個人では助けることができないということ。
「陪你讀下去」の英語版のサブタイトルは「一人の教師、一人の学生と人生を変えた友情」となっていたが、中国語版では「刑務所での授業、社会正義を探求する文学の旅が始まった」とされた。